清流とゆたかな木立にかこまれた城下組屋敷。普請組跡とり牧文四郎は剣の修業に
余念ない。淡い恋、友情、そして非運と忍苦。苛烈な運命に翻弄されつつ成長して
ゆく少年藩士の姿を、精気溢れる文章で描きだす待望久しい長篇傑作!
「BOOK」データベースより
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手元にある本書は、文藝春秋刊の単行本。乳白色のカバー地に大きく筆字で
「蝉しぐれ」。シンプルで優しい装丁そのものの時代小説。なによりタイトルが
読書ごころをくすぐる。
海坂藩の下級武士・牧文四郎の青春群像。隣家の娘ふくとの恋物語、幼馴染との
終生変わらぬ友情、藩の政治に巻き込まれて苦しみながらやがて栄達していく姿
を清冽に描いている。剣に生きる武士が主人公の時代小説ではあるが、間違い
なく恋愛小説でもある。時代小説に馴染みがない女性に読んでもらいたい。
あの時代の階級社会の中で、互いに想い合いながら文四郎は武士として、ふくは
下級武士の娘としての運命を享受しながら誇り高く生きていく姿は、この国の多く
の先人を彷彿とさせる。
藤沢周平の最高傑作と評価する専門家もいる。藩内の派閥抗争に巻き込まれる
ストーリーが中心だが、ドロドロした複雑さがなく、ストレートな展開が嫌味がない。
読みながら自分の初恋や、若い頃の淡い恋と重ね合わせてしまう。
日本人の感性に合う、読後に涼やかな風が吹くような柔らかで淡い一冊。
蝉の声が聴こえる夏に読んでほしい時代小説である。
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蝉しぐれ
