2009年のNHK大河ドラマの主人公が敬愛する直江兼続公に決まりましたので、
その原作である火坂雅志著「天地人」上下巻を読みました。
私は歴史時代小説ファンなので、それなりの冊数読んでいます。
隆慶一郎、司馬遼太郎、吉川英治、山本周五郎、藤沢周平等々。
これら大作家の作品と比較すると、そのレベルの違いに唖然とします。
残念なことに、褒めるところが一つもないのです。
感想を書けば批判しか出てきませんので、やめておきますが、
ただ細かな点を幾つか書いておこうと思います。
全体を通して”義”という上杉家独特の家風を、直線的に際立たせて描いていた
のは好感が持てましたが、私の中での直江像とはかなりの違いがありました。
また、直江を謙信の”弟子”とする表現が何度も出てきますが、”弟子”という表現
にはかなりの違和感を感じました。
多くの歴史時代小説に、創作による主人公の恋愛話が描かれます。
血生臭い時代背景の作品に、それは一服の清涼剤となるのでしょう。
その好例として、司馬遼太郎著「燃えよ剣」の土方歳三とお雪との恋は、
”鬼の副長”の人間的魅力を引き立たせました。
「天地人」でも、直江の色恋話が幾つかでてきます。しかし必要だったのでしょうか。
直江は、正妻・お船以外のは側室は娶りませんでしたが、自分の恋を題材にしたような
詩を数編残していますので、そういうこともあったのでしょうが、「燃えよ剣」の土方とは
対照的に、直江の人間的魅力を半減させたように感じました。
特に、千利休の娘との恋話の設定には無理があったように思います。
個人的には、近年の大河ドラマのラブストーリー路線が好きではありません。
しかし本書を読み、脚本家が女性であることを加味すれば、大河ドラマでは、
やはりある種のラブストーリーとなるのでしょう。
ただ決して間違ってほしくないのは、直江のあの有名な兜の「愛」の前立てを、
「男女の愛」と解釈して描くのだけはやめてもらいと思います。
どうしても愛情の愛として描くのであればどこまでも「博愛」、つまり個人的なもの
ではなく、為政者としての”義”に立脚した領民への仁愛として描いてもらいたいと
思います。この点だけは地元の人間として、強くお願いしたいと思います。
この作品は、上杉謙信ー直江兼続(上杉景勝)ー真田幸村という”義”のラインを
柱にしているので、直江の刎頚の友・前田慶次郎はサラッとしかでてきません。
大河ドラマではどうなるのでしょうか。
現在放送中の大河ドラマ「風林火山」で、上杉謙信(長尾景虎)と真田幸隆が丁寧に
描かれているのは、2009年の「天地人」(仮題)の伏線なのでしょう。
仮にそうだとすると、「天地人」(仮題)で真田幸村が重要な登場人物として出てくる
ようなら、次かその次あたりで幸村が主人公になるということも考えられそうです。
さて大河ドラマでのキャスティングですが、ここ数回はジャニーズ系のアイドルはなかった
ので、そろそろ出番でしょうか。もしそうなら、本木雅弘さん、東山紀之さんあたりが適当
な気がします。アイドル系以外なら、徳重聡さんはどうでしょう。背が高く戦国武将らしい
雰囲気がします。
いずれにしても、清冽なイメージと強い意志を感じさせる眉目秀麗な役者を望みたい
ですね。
■天地人/火坂雅志/日本放送出版協会/★☆☆☆☆
天地人〈上〉
天地人〈下〉
「天地人」を読んだ翌日、かなり以前に読んでいた藤沢周平作「密謀」を読み返し
ました。この「密謀」も主人公は直江山城守兼続です。
藤沢周平は時代小説が主で、歴史小説の数はあまり多くありません。そういう
意味では貴重な作品です。
藤沢周平作品としては平均点の作品でしょうが、登場人物の心理描写はやはり
秀逸です。物語も重層的で、奥行きがあります。
なにより、この作品に描かれた直江像は、私の中にある直江兼続とほぼ同じで、
感情移入することができました。
「密謀」では、上杉の”忍”がサブストーリーとして丹念に描かれていますので、
大河ドラマの原作としては難しいのかもしれませんが、個人的には「密謀」を原作
にしてほしかったと思います。
■密謀/藤沢周平/毎日新聞社/★★★★☆
密謀
2009年の大河ドラマは今のところ、期待より不安のほうが多いです。
とにかく直江を誰が演じるのか、そして原作をどこまで脚本で手直しできるのか。
その2点が注目です。
では今日はこのへんで